大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)10060号 判決 1987年3月26日

原告 阿部照子

右訴訟代理人弁護士 北河隆之

被告 森山亮佳こと 森山亮佶

被告 滝沢博文

主文

一、被告らは、原告に対し、各自金二〇〇万円及びこれに対する被告森山亮佶については昭和六〇年九月一〇日から、被告滝沢博文については昭和六〇年一〇月二一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は、被告らの負担とする。

三、この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文と同旨

二、請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、昭和六〇年二月一五日、訴外株式会社東海技建工業(以下「東海技建」という。)(代表取締役吉田豊司)から金二〇〇万円を借入れたが、その際、右吉田豊司(以下「訴外吉田」という。)から担保として原告の夫訴外阿部隆治所有に係る土地建物(以下「本件不動産」という。)の権利証などを預けるように要求され、夫に内緒で自宅の金庫から権利証、夫の実印などを持出して、訴外吉田のもとへ持参した。

訴外吉田は、「売買契約書は担保のために預かったものであり、お金の返済を受けたときは破棄する」などと原告に申し向け、権利証などを取上げたうえ、右土地建物の売買契約書を作成した。

ところが、これは訴外吉田らの詐欺行為であって、右土地建物は同月一八日に訴外有限会社ミナトリースに対して転売され、翌一九日には訴外阿部隆治から訴外有限会社ミナトリースへの所有権移転登記が完了していた。

2. 被告両名及び訴外室井清作(以下、まとめて「被告ら」ともいう。)は、昭和六〇年二月二七日、「訴外吉田と交渉して借入金を返済し担保として取上げられた土地建物を取返してやる。いつでも交渉して返金できるようにするため預っておく。」旨原告に申し向けて、原告から金二〇〇万円を預かった。

3. 原告は、被告らが訴外吉田との交渉に全く成果を上げることができないので、被告らに対し、預けた金員の返還を求めたが、被告らは、これを返還しない。

4. よって、原告は、被告両名に対し、右預り金二〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する被告滝沢の認否

1. 請求原因2項のうち、被告滝沢が原告から金二〇〇万円を預かったことは否認する。被告滝沢は右金員の授受には立会っていない。

2. 同4項は争う。

第三、証拠<省略>

理由

一、(被告森山関係)

1. 請求原因1項の事実は、右被告において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

2. <証拠>を総合すれば、次の(一)ないし(九)の各事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和六〇年二月初め頃、昭和五九年頃から夫に内証で始めた株式の売買で損害を出し、緊急に五〇〇万円の融資を受ける必要が生じた際、知人から被告森山を紹介されて知り合った。

(二)  原告は、その後、請求原因1項のとおり東海技建から金員を借り受けた。

(三)  原告は、昭和六〇年二月下旬頃、東海技建から借り受けた二〇〇万円を返済して、担保に提供した本件不動産の権利証等を取戻して、別のところから金員を借り受けようと考え、被告森山に電話して、右二〇〇万円を肩代りして融資してくれる人の紹介を依頼した。

(四)  被告森山は、右同日、大学の後輩で新聞社に勤める訴外室井と右室井の知人の金融業を営む被告滝沢を同行して原告と会い、右二人を紹介した。

そこで、原告は、被告滝沢に融資を依頼したところ、担保が戻ってからでないと貸せないということで断られた。

(五)  その後、原告は、遠縁の者から二〇〇万円を調達したので、昭和六〇年二月二六日頃、被告森山に電話して、東海技建に二〇〇万を返して本件不動産の権利証等を取戻してくれるよう依頼した。

(六)  同年二月二七日、被告森山は訴外室井、被告滝沢とともに被告滝沢運転の自動車で原告宅を訪れ、本件不動産の権利証等の取戻しの交渉をするために原告の調達した二〇〇万円を持参して原告を含めた四人で東海技建に行き、自動車の駐車のために席をはずした被告滝沢を除く者が右交渉をしたが東海技建側の責任者の一人が不在ということで交渉の成果はなく、再び四人で原告宅へ戻った。

(七)  そして、自動車の駐車のために外で待機していた被告滝沢を除く三人が原告宅内に入り、原告が被告森山に引き続き東海技建との交渉をしてくれるよう依頼したところ、被告森山は「(後のことは)三人でやるから金は預っておく」旨言い、被告室井がテーブル上に置いてあった二〇〇万円を受け取った。

その際、訴外室井が自分の名刺の裏を利用して室井名義で署名、押印した原告宛の預り証を作成し、被告森山が立会人名下に署名、押印して原告に交付した。

(八)  その後、被告らは被告滝沢運転の自動車でいっしよに帰路につき、訴外室井は被告滝沢に原告宅内での事情を話し、原告から受領した金員(以下「預り金」ともいう。)の大半を被告滝沢に交付した。

(九)  本件不動産の所有名義が原告の夫である阿部隆治から訴外有限会社ミナトリースへ移転されていることは、被告滝沢の調査により判明した。

以上のとおりである。

右認定の一連の事実関係によれば、被告森山、訴外室井、被告滝沢の三名は、東海技建からの権利証等の取戻しの交渉については、内部的には立場の違いや役割の分担等があったとしても、依頼者である原告との関係においては三者が一体となって関与したものと認めることができるから、前記二〇〇万円の預り金についても、前認定のとおり原告から直接交付を受けたものが訴外室井であるとしても、法律的には被告森山を含めた被告ら三名が共同で受領したものと認めるのが相当である。

被告森山は「自分は二〇〇万円の預り金については立会人として関与しただけであるから、自分には法律的な返還義務はない」旨供述しているが、前認定のとおり原告から最初に東海技建との交渉を依頼されたのは被告森山自身であり、右預り金授受当日の言動からしても、前記預り証に立会人として署名、押印したからといって、右預り金授受の当事者としての法的責任を免れるものではない。

以上の検討によれば、請求原因2項の事実を肯認することができる。

3. 請求原因3項の事実は、被告森山において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

4. 被告森山に対する本件訴状送達の日の翌日が昭和六〇年九月一〇日であることは記録上明らかである。

二、(被告滝沢関係)

1. 請求原因1項の事実は、右被告において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

2. <証拠>によれば、被告森山関係の2の(一)ないし(九)の各事実を認めることができる。被告滝沢博文の供述中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、右認定の一連の事実関係によれば、被告ら三名は、東海技建からの権利証等の取戻しの交渉については、内部的には立場の違いや役割の分担等があったとしても、依頼者である原告との関係では三者が一体となって関与したものと認めることができるから、前記二〇〇万円の預り金についても、前認定のとおり原告から直接交付を受けたものが訴外室井であり、被告滝沢自身は同席していなかったとしても、法律的には被告滝沢を含めた被告ら三名が共同で受領したものと認めるのが相当である。

被告滝沢は「自分は訴外室井から経費の一部と自分の訴外室井に対する貸金の返済分として一七〇万円を受領しただけであるから、原告とは関係ない」旨供述するが、前記のとおり、被告ら三名は東海技建からの権利証等の取戻し交渉については依頼者である原告との関係では一体として関与していたものと認められるから、被告滝沢が真実訴外室井に対し貸金債権を有していたとしても、右は被告ら三名間の内部の事情にとどまるものであり、これをもって、被告滝沢が前記二〇〇万円の預り金の当事者としての法的責任を免れることはできない。

以上の検討によれば、請求原因2項の事実を肯認することができる。

3. 請求原因3項の事実は、被告滝沢において明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

4. 被告滝沢に対する本件訴状送達の日の翌日が昭和六〇年一〇月二一日であることは記録上明らかである。

三、よって、原告の被告両名に対する本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 氣賀澤耕一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例